
目次
1.票ハラスメントってなに?
2.票ハラスメントの実態を、アンケート調査から分析する
3.防ぐためにはどうしたら良いのだろう
4.最後に
票ハラスメントってなに?
演説をしているときに有権者の男性から抱きつかれたり。
「女に政治が分かるか!」と近所の男性から嫌がらせを受けたり。
「お子さんは大丈夫か?今どうしてるのか?」
男性だと言われないが、女性が選挙活動をしているとそう言われたり。
これらのことは全て、日本の女性候補者・議員の身に起こっていることである。「ダイバーシティー」「ジェンダー平等」が叫ばれる中で、未だに日本の政治の世界には、不平等に苦しむ女性たちの姿がある。
「票ハラスメント」という言葉を聞いたことはあるだろうか。
票ハラスメントとは、選挙活動の際に、候補者が、有権者や支援者らから受ける嫌がらせ
行為のことである。
その内容は多岐にわたっており、長い間多くの候補者を悩ませてきた。
前述したような、望まないスキンシップ・言葉の暴力・ジェンダーステレオタイプ(男性はこうあるべき、女性はこうあるべきといった偏見)に加え、
SNS上での中傷や嫌がらせ・プライベートのことをしつこく聞かれる・自らの政策や信条を綴ったリーフレットを、渡したその場で破り捨てられる・候補者として街を歩いている際に暴力をふるわれるといった行為が挙げられる。
票ハラスメントの実態を、アンケート調査から分析する
男性候補者・議員が被害に遭うケースもあるのだが、女性候補者・議員の方が、その割合はずっと高い。
内閣府男女共同参画局が、2020年の12月から2021年の1月に実施した調査GENDER EQUALITY WEEKによれば、男性地方議員で、議員活動や選挙活動中に、有権者や支援者らから票ハラスメントを受けた人の割合は32.5%に上った。
この数字も驚くべきものだが、女性議員の中では、さらにこの2倍近くにあたる57.6%が同様にハラスメントを受けていたことが分かった。(「地方議会議員に対するアンケート調査」回答者5,513人(男性3,234人、女性2,164人))
受けたハラスメント行為には、男女間での差と特徴が見られる。
第一に、立候補を考え準備している段階で起きた被害を見ていく。
男性候補者が受けた行為で最も多かったのは、「SNS、メール等による中傷、嫌がらせ」(24.5%)であった。それに対し、女性候補者が受けた行為で最も多かったのは「性別に基づく侮辱的な態度や発言」である。女性全体の27.2%がこのように回答し、これは全体で最も大きな数字となった。反対に、男性候補者においてこの行為を受けた人の割合は11.4%と、女性よりは低かった。(「立候補を検討したが断念した者に対するアンケート調査」回答者994人(男性500人、女性494人))
第二に、議員活動や選挙活動を行っている段階で起きた被害を見ていこう。
男性候補者が受けた行為で最も多かったのは、前述と同じく「SNS、メール等による中傷、嫌がらせ」(15.7%)であった。それに対し、女性候補者が受けた行為で最も多かったのは「性的、もしくは暴力的な言葉(ヤジを含む)による嫌がらせ」(26.8%)であり、その次に僅差で「性別に基づく侮辱的な態度や発言」(23.9%)が続いた。(「地方議会議員に対するアンケート調査」回答者5,513人(男性3,234人、女性2,164人))
これらのことから分かるのは、女性候補者が受けるハラスメントには、性に関連したものが男性よりも圧倒的に多いということである。
つまり、その女性候補者の政策あるいは信条に対しての批判を行うよりも、「“女性が”政治を行うこと」に対する嫌悪感や蔑視する感情が先行し、それが、票ハラスメントという形で示されているのではないだろうか。
選挙で勝つことが不可欠な候補者らは、有権者らの“票”を得るためには、どんな嫌がらせを受けてもその場で声を上げられないという事情があるだろう。
そこを逆手にとり、見下したような行動を取ることは、卑怯極まりないことだ。その候補者や議員の心を傷つけるだけでなく、その人の政治家としての人生に大きな影響を及ぼし得る。
現に、「立候補を検討したが断念した者に対するアンケート調査」では、立候補を断念した人のうち、男性の58.0%、女性の65.5%が何らかのハラスメント行為を経験したと回答している。
断念の理由は様々あるにせよ、ハラスメントを受けたことも、引き金となったと大いに言えるのではないか。
防ぐためにはどうしたら良いのだろう
その地域を代表して立ち上がった志ある議員・候補者たちを、このような票ハラスメントから守るにはどうしたら良いのか。
大きく、3つのことを提案したい。
第一に、候補者や議員らが、所属する政党やその他の機関に、票ハラスメントのことなど、選挙において不安なことを訴え、気軽に相談できるようにすることだ。
政党に所属していなかったり、秘書がいなかったりする地方議員は、ハラスメントの被害を相談できない、サポートを受けられないという現実があるようだ。そのような人たちが泣き寝入りせずに、訴えられる場を設ける必要があるだろう。
第二に、ハラスメント行為をしてきた人が、「その行為はいけないことだ」という認識を持つことだ。
票を入れる側の有権者や支援者らは何をしても良いという考え方は変えられなければならず、そのためにはどんな方法が有効か、といった議論が今後必要となるだろう。
第三に、現在の風潮を変えることだ。
最も時間がかかることかもしれないが、とても大切なことである。
まず、選挙の裏側でこのようなハラスメント行為が横行していることが、もっと知られるべきだ。加えて、それらの行為が、政治を始めようとする人たちや、人々の意見を国に届けようと頑張る人たちの大きな足かせになっているということも。
そのうえで、今行われている選挙の方法が少しずつ変わっていくべきだという議論も、必要なのではないか。
例えば、プロフィールをどこまで公開するのか・議員や候補者への連絡手段をどうするか・選挙戦での、握手などのスキンシップはどこまで行うべきかなどだ。
最後に
高い志を持って、政治家として名乗りを上げたのにも関わらず、自らが掲げる政策や信条とは関係のないところでその意志を邪魔されるということは、なくならなければならない。
多様な人々が生きる日本だからこそ、政治の世界には、様々な立場からの視点や考え方が必要ではないか。そのためには、女性や若者などが、政治家としてよりのびのびと活躍できる環境が整えられなくてはならない。
長く続いてきた風潮は、一朝一夕には変わらない。
だからこそ、多くの人が、今政治の世界で起きている今回取り上げたような「票ハラスメント」といった問題に関心を持ち、向き合うことが求められる。
まずは「関心を持ってみる」というところから、一歩ずつ、私たちの暮らしや人生に直接関わる、日本の政治の在り方を変えていこう。
~参考文献~
横山翼、中村真理、多知川節子、秋山訓子「票ハラスメントって?」『朝日新聞』2021年8月8日、朝刊
GENDER EQUALITY WEEK 内閣府男女共同参画局、2021年6月公開
諸外国における政治分野への女性の参画に関する 調査研究報告書 、有限責任監査法人トーマツ、2019年3月公開
女性議員を追い詰める「票ハラ」被害が深刻化 その背景は?〈AERA〉、2019年2月6日公開
都議会でセクハラヤジ......女性支援ってなに?〈BOOKSTAND〉、2014年6月19日公開
、2019年4月9日公開
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