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  • 執筆者の写真ユリナ

【特集】「デフリンピック」って知ってる?~ろう者のオリンピック~



「パラリンピック」について、知っている人は多いだろう。4年に1度、オリンピックの直後に開催される、障がいのあるアスリートのための「もう一つのオリンピック」である。車いすやアイマスクを使いながら競技に参加する選手たちの映像を見たことがある人も多くいると思う。昨年夏に東京、今年の冬には北京でオリンピック・パラリンピックが開催され、多くの日本人アスリートがメダルを獲得したことは記憶に新しい。

そんなパラリンピックでは、主に肢体不自由、視覚障がい、知的障がいを対象にした競技が開かれているが、一般的には障がい者に区分されるにもかかわらず、パラリンピックへの参加資格がない人たちがいる。聴覚障がい者を対象とした競技はパラリンピックでは開かれておらず、ろう者はパラリンピックには参加できないのである(重複した障がいがあるろう者が参加した例はある)。


その代わりに、ろう者アスリートには、デフリンピック(Deaflympics)という大会が存在する。


デフリンピックって?

聴覚障がい者を表す「Deaf」とオリンピック「olympics」を組み合わせて名づけられたデフリンピックは、その名の通り聴覚障がい者のためのオリンピックである。1924年に「国際サイレント大会(International Silent Games、略してISG)」としてパリで始められた、オリンピックに次いで世界で2番目に歴史のある国際総合スポーツ大会である。先ほど「その代わり」とは書いたが、その歴史はパラリンピックより長く、ISGパリ大会は障がいを持つ人を対象にした、史上初のスポーツ大会なのだ。


デフリンピックはオリンピックと同様に、4年に1度、夏季大会、冬季大会が2年ごとに開催される。競技は、夏季には陸上、テコンドー、バスケットボール、柔道など21種(2022カシアスドスル大会)、冬季にはアルペンスキー、スノーボードなど6種(2019ヴァルテッリーナ大会)がある。


デフリンピックのルールは、ほぼオリンピックと同じだが、耳が聞こえなくても参加者が不利にならないよう、様々な工夫がされている。

例えば100m走では、フラッシュランプによる光でスタートを知らせる。このフラッシュランプは、バスケやハンドボールなど、様々なスポーツでも活用されている。他にもサッカーやラグビーなどの審判は、笛を鳴らすとともに、旗をあげたり手をあげたりして選手に合図を知らせる。このように目でわかるように情報を補う、「視覚保障」がなされているのだ。


デフリンピックを運営するのは「国際ろう者スポーツ委員会(The International Committee of Sports for the Deaf・以下ICSD)」である。この組織で投票権をもつ代表者、理事会、執行部の構成員は、全員ろう者である。手話は国によって異なるため、会議では国際手話が使われている。デフリンピックは、運営者、参加者ともにろう者のコミュニティに属する人たちが活躍しているのだ。


デフリンピックのロゴ

「OK」「よい」「すばらしい」などの意味を表す手話が、口語庭のように重なり合うと、「オリンピック」を表す手話となる。2つの手でこの形を作ると「一致」を表す手話となる。

このロゴマークの中心部分は、目の虹彩を表している。つまりろう者とは視覚の人であり、目によってコミュニケーションするものであると謳っている。

Deaf Sports & Deaflympics ろう者スポーツとデフリンピックより


なぜパラリンピックにろう者が出られない?

「『ろう者スポーツ』も『障がい者スポーツなんだから、パラリンピックと一緒にできないの?」と思う人も多くいると思う。そこにはいくつか理由がある。


一つ目の理由は、デフリンピックの経営理念にある。「ろう者スポーツとデフリンピック 国際オリンピック委員会提出レポート」には、「デフリンピックは、専ら(もっぱら)ろう者のコミュニティに属する者によって運営されている点において、他のIOC認可団体と一線を画している」とある。デフリンピックはパラリンピックよりも歴史が古く、「ICSDはろう者の手によって組織・運営され、自治自律を経験してきた」「ICSDの根幹となる方針が、ろう者によるリーダーシップである」つまり『デフによる、デフのための』という精神を大事にしている。そのため、聴覚障がい以外の障がいを持つ選手と共同で大会を行うのは難しいのである。


二つ目に、先ほど述べた「視覚保障」のために多くの費用が掛かることが挙げられる。また、聴覚障がいは「見えない障がい」と言われることもあるように、一見困難を抱えていないようにも見える彼らの中には、陸上や水泳などの個人競技でオリンピックに出場した選手もいる。このようにデフスポーツは他の障がい者スポーツと身体的な面で違いがあるという点も、パラスポーツと一緒くたにできない理由である。



デフスポーツの視覚保障

陸上競技のスタートランプと音響装置・空手競技のランプ

パラスポーツスタートガイドより(ttps://parasports-start.tokyo/)










日本人選手の活躍・デフリンピックのこれから

ここまで紹介してきたデフリンピックだが、実は先日、2022年5月1日から15日まで、ブラジルで第24回夏季大会が開催されていた。72か国から2300人以上の選手が参加し、日本からは95人の選手が出場した。残念ながら日本選手団内で新型コロナウイルスの集団感染が発生し、5月11日以降の全競技で出場辞退となってしまったが、それでも空手の小倉涼選手、水泳の茨隆太郎選手らが金メダルを獲得、卓球女子団体、バドミントン男子団体などが銀メダルを獲得し、最終的に日本選手団は合計金メダル12個、銀メダル8個、銅メダル10個を獲得する活躍を見せた。


このように日本人選手も多く活躍するデフリンピックだが、今回初めて知ったという人も多いだろう。日本財団の調査によると、パラリンピックを知っている人は全体の98.2%なのに対し、デフリンピックの知名度は11.2%にとどまっている。私は記事を書く中で、デフリンピックは歴史も古く、選手だけでなく運営する側もろう者が活躍できる素敵な大会だと強く感じている。その知名度の低さから、スポンサー不足に悩まされるろう者アスリートも少なくないという。この記事が、あなたがデフリンピックを知り、興味を持つきっかけになってくれれば嬉しく思う。


また、2022年5月現在、2025年夏季デフリンピックを日本に招致する計画が進行中である。もし招致が実現すれば、史上初の日本開催となる。今後のデフリンピック、デフスポーツのニュースにも、是非注目していきたい。



参照:

Deaflympics 公式サイト https://www.deaflympics.com

一般財団法人全日本ろうあ連盟 スポーツ委員会 https://www.jfd.or.jp/sc/deaflympics

デフリンピック 紹介パンフレット https://www.jfd.or.jp/sc/deaflympics/about/

deaf sports & deaflympics ろう者スポーツとデフリンピック 国際オリンピック委員会提出レポート https://www.jfd.or.jp/sc/files/deaflympics/resources/presrep-j.pdf

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