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  • 執筆者の写真ユリナ

そのメイクは誰のため?ヨシカズ「顔に泥を塗る」




「感動した」とか、「心を揺さぶられた」とか、あるいは、「つまらなかった」とか。世の中には、人それぞれの様々な評価がつけられた創作物が数えきれないほどあります。そんな中で、ライティングチームのメンバーがめぐり逢い、どうか一人でも多くの人に届けたいと思った「これは…!」というものを、思い思いのスタイルで紹介していきます。私たちが紹介する創作物との出会いが、多くの人の人生を豊かにすることを願って…



 


ルビーコッパーマホガニー、…ローズベージュピンクゴールド……一番無難な色は何色? 男の人が好きな色は? 仕事で使っていい色は? 友達に褒められる色は?…私は今日も正解の色を探してる」


モノクロで印刷されていてもなお、各々の色彩が鮮やかに浮かびあがるような、ページいっぱいにちりばめられた化粧品たちのイラストと、主人公の独白で、この物語は始まる。


今回紹介するのは、ヨシカズによるマンガ「顔に泥を塗る」


この言葉の意味は、慣用句では「面目を失わせる、恥をかかせる」。それと同時に、このマンガではメイクを泥に例えて「顔に泥を塗る」と言っている。


「メイクは泥と同じ ファンデやグリッターを厚く塗り重ねて綺麗に見せただけ 顔に泥を塗っただけ______」


このマンガは、「真っ赤な口紅塗ったら彼氏にクレンジングオイルぶっかけられた話」としてtwitterに第一話が掲載され、注目を浴びた作品である。


大学に入学してから日常的にメイクをするようになったものの、自分に似合うメイクがわからず悩んでい時期に、たまたまこのツイートを見かけ、掲載されたラストに衝撃を受けて購入した。


コスメショップで「このアイシャドウかわいい!」「このリップの色味めっちゃ好き!」と思っても、「やっぱり私には似合わないかも」「周りの人になんか言われそうで嫌だな」と、結局買わずに店を出てしまうようなことが多かった私には、すごく刺さる作品だった。メイクを普段する人だけでなく、メイクに興味がない人にも読んでほしいと思い、記事を書くことにした。




「なんか中学生が頑張って厚化粧したみたいな感じ」

同棲中の彼氏にそう言われ、自分が好きだと思った赤リップをやめ、彼氏が好きな薄い化粧をすることにした主人公、美紅。そんな彼女は、ひょんなことからメイク好きの男子大学生、イヴと出会う。


彼は性別や周りの目にとらわれず、メイクやオシャレを楽しみながら、自分が好きな格好を自信を持って貫く。彼氏の意見で自分の「好き」を曲げてしまい、メイクを楽しめない美紅とは正反対の青年だった。


そんなイヴと出会い、美紅には自分の「好き」を曲げたくない気持ちがだんだんと芽生えていく。同時に、その気持ちは「好きな人に嫌われたくない」「彼が好きな『私』でいたい、いなくては」といった感情とぶつかり合う。




「男ウケ」とか「モテメイク」とか、そういう言葉がはびこる世の中で、なんのためにメイクしているんだろう、と思うことがある。また、「女性がメイクをするのは当たり前」というある種強制的ともとれるような価値観があるのに対し、男性がメイクやスキンケアに力を入れることにはマイナスな感情を持つ人も未だ多い。この現状に違和感を覚えることもあったが、この二人のやり取りは、そんな私のモヤモヤに全力で答えてくれる。


大好きな人に、もっと自分のことを好きになってもらうためのメイクももちろん素敵だと思うし、彼に嫌われたくないという美紅の気持ちもよくわかる。でも、私は自分が自分を好きになるためにメイクしたいと思う。このマンガに出会って、強くそう思えるようになった。


だんだんと自分の「好き」のためのメイクの楽しさに目覚めていく美紅を見るのは楽しかったし、このマンガを読んだ当初の私にはとても眩しかった。周りの目を気にすること、TPOをわきまえたメイクを求められることは多くあるけど、いつかそれを取っ払って、どんな時でも、自分が好きな自分でいられるような社会が来ることを願わずにいられなくなる。




メイクに興味がない人も、その楽しさに触れられるような、自分がしたいメイクを探したくなるような、「正解」の色なんてなくても、誰しも輝く素質を持っているのだ、と励ましてくれるような作品だった。かつてはメイクを泥だと思っていた、二つの感情の間で揺れ動いていた美紅の、最後に下した決断にも注目してみてほしい。







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