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【特集】大切な人に「死にたい」と言われたら。私たちにできること

執筆者の写真: KanaKana


※この文章は「自殺」や「死」についての内容を含んでいます。心が苦しくなりそうだから読むのはやめておこうかな…という方は、そっと閉じてくださいね。


 

「命の門番」との出会い



2021年ももう終わりに近づいてきた11月、私はある存在のことを知った。


それは、今回の記事で伝えたい「命の門番」と呼ばれる人のことである。みなさんはこの言葉をどこかで見聞きしたことはあるだろうか。


門番と聞くと、“どこか近寄りがたい人”といったイメージを持たれるかもしれない。命の門番とは、そんなイメージとはかけ離れているけれど、同じように“大切なもの”を守る人のことである。


これは「ゲートキーパー」という英単語を日本語で解釈したもので、私は大学の友人から聞いてこの言葉を知った。最初聞いたときは「なんのことだろう?」と思ったのだが、その友人が貸してくれたゲートキーパーにまつわるハンドブックなどを読み込むうちに「なるほどこれは大切な存在だ」と思い、今回このように記事にすることを決めた。


ゲートキーパーとは、さまざまな理由から自殺を考える人に寄り添い、声かけや話を聴くことを通じて、孤立を防ぎながら必要な支援につなげる存在のことである。日本では、毎年自殺する人が数多くいるという背景を踏まえ、なぜ今この存在が求められているのかを見ていきたい。なお、記事のなかでは「命の門番」と「ゲートキーパー」のどちらの呼び名も用いて話を進める。



突然だが、あなたは“自分の死”について考えたことはあるだろうか。


私は正直、“今の自分の暮らしがある日突然終わり、どこかに連れ去られてしまうような感じなのかな…”というぼんやりとしたイメージしか持っていない。考えても正解にたどり着けるとは思えず、かといって自分を納得させるひとつの解を導くこともできない。けれど、どことなく怖い感じはする…。そんなものなのだ。それくらい私にとって、死はあまりにも現実味がなく、どこか触れないでおこうとしてしているものだと言える。


だが、もし自分の身の回りにそんな“死”という道を選ぼうとしてしまっている人がいたら。あるいは自分自身が、“死”に追い込まれていってしまっているとしたら…。


こう考えると胸がきゅっと締め付けられるような感覚になるが、もし本当にそのようなことがあったとしたら、彼らあるいは自分自身を死から遠ざけ、それ以外の道を示してくれるような人の助けが必要だろう。



悩む人に気づき、声をかけ、話を聞き、そして必要な支援につなげる。一見、「プロのカウンセラーの仕事」のように思えるかもしれない。しかし、そうではない。誰かを救えるのは、プロだけではない。私もあなたも、必要なプロセスを踏めば、誰かの命を助けられる。それが「命の門番=ゲートキーパー」と呼ばれ、近年必要性が重視されている存在なのだ。



なぜ「命の門番」が必要なのか



「命の門番」の重要性を考えるうえで避けては通れないと思うのが、「日本ではどれくらいの人が自殺したのか」という事実だ。


新型コロナウイルスの急速な感染拡大に世界が震撼していた2020年(令和2年)、日本では21,081人の方が自ら命を絶った。女性が7,026人。男性はその倍で、14,055人。(警察庁『令和2年度における自殺の状況』より)

この数は、その年に交通事故で亡くなった人の数や、新型コロナウイルスが原因で亡くなった人の数を大きく上回る、衝撃的なものである。


それよりも前の時期にさかのぼると、さらに深刻な事態がうかがえる。1997年から2011年までの14年間、自殺者の数は毎年3万人を超えていたのだ。


この数字は実際に亡くなった人の数であり、亡くなるまでは至らずとも、自殺を考えた、あるいは未遂に終わったという人は、この倍以上いるのではないかと思われる。


自殺した人の年齢は10代から80代以上までに及んでおり、自殺に至った原因は人によって異なる。

健康のこと、生活のこと、家庭のこと、仕事のこと、学校のこと、人付き合いのこと…その人だけが抱えるさまざまなことに苦しみ、追い込まれた末の死が自殺なのではないか。


幅広い年齢・立場の人がこれほど多く自殺しているという事実が示すのは、「自殺はもはや他人ごとではなく、いつかは自分ごとになり得る」ということである。

実際に今、自分の身の回りに自殺を考える人がいる可能性がある。そのような社会状況において、「自殺」そのものや「死にたいと思うほどの苦しみ」に誰もが向き合う必要があるのではないか。なので私は、「命の門番」という存在が社会で求められており、かつ、今後より広く認知されていくべきものだと考える。


今の日本は平和な状態にあり、多くの死亡者が出るような争いのなかにはない。それなのに、世間から目を向けられずとも、日々、ひとり、またひとりと自ら命を落としているというこの状況を、作家の五木寛之さんは「心の内戦」(『大河の一滴』)という言葉で表現した。私はこの言葉を見たとき、非常に的を得ていると感じ、胸が痛くなった。目に見える戦争のなかに置かれている状態ではないけれども、人々が、身に起こるさまざまな要因に心をむしばまれ、死へと追い込まれていくような状態にあるからだ。


今なお続く「心の内戦」のなかで、私やこの文章を読んでくださっている方にできること。それが、ゲートキーパーとして、身の回りにいる「悩んでいる人に寄り添い、関わりを通して『孤立』を防ぎ、支援する」(NPO法人日本ゲートキーパー協会TOKYO のハンドブック)ということだ。

前述したように、悩みを持つ人に寄り添い助けられるのは、プロだけではない。ゲートキーパーは専門性がなくとも、誰もがなれる存在なのだ。



具体的にはどんなことをする人?



ここで、ゲートキーパーがどのように支援するのかを紹介したい。


気づく


周りにいる人を見てみて、いつもとなにか違っていることはないだろうか。例えば、何度もため息をついている・顔色が悪い・身だしなみに気を使わなくなった・感情の起伏がはげしくなった・危険な行動をとるようになった…など。これらは、“行動”から判断できるストレスのサインである。

周囲には見えていても、行動の変化は本人がなかなか気づかないものだそうだ。そのため、「なにか違う」と思ったら、まずはそのことを周りにいる人が心にとどめておく必要がある。


声をかける


「なにか違う」と気が付いたら、次は声をかけてみる。ここでポイントなのが「心配している」ことを言葉でしっかり伝えるということだ。自分が気づいた相手の変化を指摘して、「~~だから心配しているよ」というふうに伝えたり、「自分が話を聞こうか?」「今すぐでなくても、なにかあったらいつでも声をかけてね」というふうに、提案をしたりしてみるのだ。


話に耳を傾ける


自殺を考える人の背景には、絶望する気持ちや悲しみ、「いますぐに何とかしないといけない」という焦り、自分に価値がないと感じる気持ちなど、さまざまな心理状態があるとされる。( 自殺を考えている人の心理 )

そのため、まずは「安心して話せる環境」をつくり、相手の感情を否定せずに真剣に受け止める必要がある。「聴いている」と態度で示すことも重要だ。このとき、安易に励ましたり、アドバイスをしたりすることは避ける。勝手に結論付けられたり、自分の話に持っていいかれたりしては、安心して心から話せなくなってしまうからだ。


つなぐ・見守る


話を聴き、専門家の助けが必要だと判断したら、医療機関や相談機関へつなぐ。紹介する場合は相手に丁寧に情報提供をし、確実に繋がれるよう、連携先と密に連絡をとる。相談の場所や日時を具体的に設定して、相手に伝えるようにする。連携できた後も、「必要があればまたいつでも相談に乗るからね」と伝え、相手をそっと見守っていこう。


ここまで、ゲートキーパーとして誰かを支援するやり方を紹介してきたが、いつも覚えておきたいのが「ゲートキーパー自身の心の準備や、健康管理も大切」ということだ。自分もすぐに相談できる場所を知っておき、安心して活動できることが重要である。



最後に


最後に、こんな言葉を伝えたい。


「生きているということだけで、尊重されるべきです。」


私が好きなあるアイドルが、ファンに贈ってくれた言葉である。


“生きている”という、それだけで素晴らしく、尊いことが守られるために。私もあなたも、誰かの「命の門番」になりませんか。






<参考文献>

  • 「いのちとこころのゲートキーパー講座 知識編」NPO法人日本ゲートキーパー協会TOKYO(GKT)

  • 「いのちとこころのゲートキーパー講座 実践編」NPO法人日本ゲートキーパー協会TOKYO(GKT)

  • 令和2年中における自殺の状況 令和3年3月16日、厚生労働省自殺対策推進室、 警察庁生活安全局生活安全企画課

  • 「ゲートキーパー養成研修用テキスト(第3版)」厚生労働省

  • 「誰でもゲートキーパー手帳」厚生労働省



<相談先>


  • 「こころの健康相談統一ダイヤル」0570-064-556(おこなおう まもろうよ こころ)

  • 「よりそいホットライン」0120-279-338 (つなぐ ささえる)←外国語による相談も可能です。

  • 東京都在住・在学の方へ



ここまで読んでいただきありがとうございました。上記は相談先のほんの一例です。悩みを相談したい、自分の思いを共有したい…など、その時々に応じて様々なツールを活用してみてくださいね。


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