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明治大学に要望書を提出しました 〜明治大学関係者の性的同意の認知度と、性被害・目撃等の調査結果〜

執筆者の写真: HinaHina

Voice Up Japan明治大学支部代表 ひな

【御礼】

 この度は、当支部が行ったアンケート調査にご協力いただいた皆様、誠にありがとうございました。おかげさまで、536名の皆様からのご回答をいただくことができ、Voice Up Japan明治大学支部にとって非常に大きな力になりました。特に本調査では性被害の経験を尋ねる項目もあり、簡単に回答できない項目もありました。本調査の結果において、当支部でも新たな発見と学びが多くありました。また、要望書にご賛同いただいた32名の先生方、また要望書をご覧くださった方々、建設的なフィードバックをくださった方々、ご協力いただきまして誠にありがとうございました。皆様なしにこの要望書の提出を実現させることはできませんでした。重ねて、皆様のご経験・貴重なご意見を共有いただきましたこと、心より御礼申し上げます。以下、明治大学関係者の皆様からの本アンケート調査結果をご報告いたします。


※ 以下、引き続き読まれる場合、フラッシュバックの可能性がございますので、気分を害された場合はすぐに読むのをご中断いただき、ご自身の安全を優先してください。


【明治大学関係者全員が「性的同意」を知る未来を願って】

 私は、明治大学の協定留学プログラムでオーストラリアの大学に留学をした経験があります。留学生は、新一年生たちが参加する入学オリエンテーションに一緒に参加をし、大学とは別で寮のオリエンテーションにも参加をしました。そこで私が気づいたことは、入学オリエンテーションでも入寮オリエンテーションでも、「性的同意」を推進する時間が必ず設定されていたということでした。入寮オリエンテーションでは「Tea Consent 」(*1)という動画が流されましたが、それは非常に簡易的なイラストで、紅茶を例に性的同意の必要性を訴えるものでした。先生や寮のスタッフたちが見守る中、学生たちは全員がその動画を静かに視聴し、その動画のコミカルな点で一緒に笑ったりもしながら、全員が「性的同意」という概念を知る機会を必ず設けていました。

 明治大学入学時だけでなく、私は日本で受けてきたこれまでの教育において性的同意を推進する話を聞いたり、ワークショップを経験したりしたことは一度もありませんでした。オーストラリアの留学先で頻繁に見かけた性的同意を推進するポスターも日本では見たことがありませんし、性教育においても、学んだのは性器の名称や月経の仕組みといった生物学的知識ばかりで、「性的同意」はVoice Up Japanに入ってから初めて知った概念でした。明治大学の協定留学プログラムで他国に留学した友人たちも、留学先の大学で「性的同意」のワークショップを経験しており、このことから明治大学では留学をする人のみが性的同意に関する教育を受けられる状態になっているということが分かります。しかし、性的同意の概念は、留学した人のみが知っているべき知識ではありません。性被害の数が決して少なくない日本の大学でもそのワークショップは大いに必要であり、自分が在籍している明治大学でも、その教育は必ずできると考えております。このような経緯から、Voice Up Japan明治大学支部は、明治大学に要望書を提出することを決めました。


【なぜ性的同意を知っていることが大事なのか】

※この章は、こちらの報告書(*2)と同様の内容を掲載しております。

 誰もが安心・安全な性生活を送るためには、被害者にも加害者にもならないように気をつけることができ、今まで又は今後何か同意のない性的言動を受けた場合、あるいはしてしまった場合に、それを認識し、無理のない範囲で他の信頼できる人に説明・相談できるための知識を持っていることが大事だと考えます。

 日本の性的同意年齢は13歳です。性的同意の概念は、本来であれば性的同意年齢の13歳までに知っておくべきですが、現在の日本の学校教育では教えてもらえません。2017年に刑法改正がなされた後も深刻な課題が残っています(*3)。被害に遭えば、身にも心にも深い傷を負います。大学生は性的同意年齢を超えており、現在の法律で守ってもらえる可能性は高くありません。そもそも守ってもらえたからといって傷が元通りになることはありません。それでも被害は突然襲ってきます。抵抗できない何らかの事情がある場合もあります。もちろん、故意のある悪質な加害者も存在しますが、性的同意についての知識がないために加害者になってしまうケースもあります。そのようなことが一切起こらないようにする必要があると思います。


【性的同意プロジェクトについて】

※この章は、こちらの本部の合同報告書(*2)と同様の内容を掲載しております。ぜひそちらの記事も併せてご覧ください。

 本プロジェクトのミッションは、大学に性的同意に係る情報提供をしてもらうことです。特に現段階では、入学時のオリエンテーションなどで、全学年の学生が性的同意に係る基礎知識を得ることのできる機会を大学につくっていただくことを目標としています。2020年11月から、当団体の大学支部である国際基督教大学支部、明治大学支部、早稲田大学支部のメンバーがチーム一丸となって、また各支部のリソースやネットワークを各々活かしながら活動しています。性的同意とは何か、アクティブバイスタンダーとは何か、被害にあったらどのような情報が必要なのかなど、議論を重ねてきました。

 警察に届け出たり大学の相談室を使ったりはしていないけれど個別に相談してくれる友人がいる、やはりどこか表立たないところでそういった被害の話を聞く、性被害がキャンパスで、また大学関係者間で発生していることを知っている、といったチームメンバーもいました。もしも各大学の学生が性的同意を正しく認知しており、性暴力に遭っておらず、目撃することもなく、性暴力のない安全なキャンパスにいるのであれば、そもそもそういった性的同意に係る教育や努力はそこまで必要ではないのかもしれません。しかしそのような被害経験が大学が認識できないところで語られている現実があったため、以下のアンケートを実施することに決めました。(現在、そのアンケート結果を元に性的同意に係る情報提供を各大学に要望しています。)


明治大学を含む首都圏三大学におけるアンケートの実施内容や結果はこちらからご確認いただけます。

以下は、明治大学内に限った性に関する被害・目撃経験等に関するアンケートの結果内容です。


【アンケートでわかった6つの重要なこと】

  1. 性的同意をとるための行動をしていない/してこなかった人が90%以上

 性的同意の認知度を問う質問(設問3)で、「性的同意をとるための行動をしている/してきた」と回答した人は全体のわずか約9%でした。性的同意の概念を知ることはあくまで第一のステップであり、行動に移さなければその概念が存在する意味はありません。この結果は、Voice Up Japan明治大学支部が明治大学に要望書を提出する必要性を確実なものにしました。明治大学が性的同意を推進する道のりは決して短くないですが、大学が性被害予防のための対策をしていないという現状は早急に変える必要があります。


  1. 全回答者の約75%(全回答者536人のうち404人)が性的同意の意味をわからない、または勘違いしている

 性的同意について聞いたことがあるか、性的同意をとるための行動をしてきたかどうかの認知度を問う質問(設問3)では、「定義と行動を説明できるし性的同意をとるための行動をしている又はしてきた」と回答した人は全体の約9%で、「定義を説明できるし、性的同意が具体的にどんな行動のことか知っている」と回答した人は約25%でした。性的同意の言葉の認知度は高くなっているものの、具体的な知識を有している人・行動できている人は比較的少ないことがわかりました。

 また、別の質問(設問4)では、性的同意が成立していると考えられる状況を回答してもらいました。質問(設問3)にて回答者全体の約34%が、性的同意を理解し、具体的な方法も知っていると回答しましたが、そのうち約29%の回答者が、性的同意が成立していない状況を性的同意が成立していると勘違いしていることがわかりました。つまり、全体の約75%が具体的な知識を持っていない、もしくは勘違いをしてしまっています。性暴力をなくすための正しい知識の底上げと、周知の徹底が必要です。


  1. 被害を止めるために介入できなかった人が87%を占める

 誰かが被害に遭っている場面を目撃した時に、介入できない又はしないと回答した人が大半を占めることがわかりました(設問12)。半数以上の回答者が「行動したことはないが、介入方法を知っていれば行動にうつすと思う」と回答し、アクティブバイスタンダーについての知識の共有をすることで、性暴力を防ぐために行動できる人が増える可能性があるとの結果を得られました。


  1. 回答者の536人中164人が性被害を受け、そのうち8人が強姦を経験したと回答

 明治大学に入学・所属してから遭った性被害を問う質問(設問5)では、入学・勤務してから今までそういった経験はなかったとの回答が最多で約69%でした。また、明治大学に入学・所属してから目撃した性被害を問う質問(設問7)でも同様の回答が最多で約68%でした。その他の回答者がなんらかの被害に遭った・目撃したことがわかりました。その中でも「あなたの同意なしにセックスをする」ことを経験したとの回答は8名(約1.5%)、そして目撃した回答者は、全体の約3%である14名の回答者がいました。1人でもそういった経験をされた方がいることにとても心が痛みます。そもそもあってはならないことです。

 また、被害のなかで最も多かったのは「性差別・性的なコメントや質問、冗談をいう」、その次が「性・ジェンダー・セクシュアリティをもとに根拠のない決めつけをする」というもので、言葉による被害が多くみられました。これは、割合に前後差はありますが、目撃したことのある回答(設問7)でも同様の結果でした。

 性差別や性的な冗談が許されないことであると捉えられていない可能性があること、そしてジェンダーに関する知識が少ない大学関係者がいることがわかりました。さらに、歓迎されていないスキンシップ(ボディーコンタクト)や同意のないセックスが発生しているという事実は、あってはならないことであり、性暴力のない大学・職場環境の実現に向けて必ず改善がなされるべき点です。

 また、加害者の傾向では男性と思われる方、被害者の傾向では女性と思われる方が多くいました(設問8〜11)。加害者、被害者は大学生・大学院生だとの回答が多く見られましたが、教職員・研究員が加害者だったという回答は約4.1%、教職員・研究員が被害者であったという回答は約7%もあり、加害者の層が広いことがわかりました。学生だけでなく、教職員・研究員にも性的同意、性被害に関する知識を向上するための研修が行われる必要があります。


  1. 約50%が自分の受けた性被害を性被害だと認識していない

 性被害の経験を問う質問(設問5)で「入学・勤務してから今までそういった経験はなかった」以外の選択をし、後の「被害を通報した経験があるか」を問う質問(設問14)では「被害に遭遇したことがない」と回答した方がいました。つまり、被害を被害だと思っていない人が存在することが分かりました。このことから、大学に入学・所属して以降、今まで大学関係者(学生、教職員、卒業生など)による性被害に遭った人のうち、それを性被害と認識していない回答者が約50%であることが分かりました。性被害とは何なのかという基本的な情報の認知度が低く、性被害に関する情報を周知する必要性があります。

 そして、性被害に遭った際に、実際に大学に通報又は相談機関を訪ねたと回答した人は全体の約1%であり、被害に遭ったものの通報または相談機関を訪ねなかった人数(全体の約19%)を下回りました(設問14)。被害に遭った回答者の中で相談・通報しなかった理由で最も多かったのが、「被害のスケールが小さいと判断し相談する必要がないと思ったから」で、全体の約53%と半数を超えました。他にも「加害者が友人、親しい方だったので、ためらいがあったから」、「加害者が教授だったので、ためらいがあったから」といった、加害者との人間関係によってためらいを感じたという声も上がりました。


  1. 約70%の回答者が明治大学の性教育や性被害対応を不十分だと評価

 明治大学のセクシュアルハラスメント・性被害対応(相談室の運営、性的同意についてや被害防止のための教育など)が十分であると考えるかどうかを問う質問(設問16)で、「十分でない」もしくは「全く十分でない」と回答した回答者が全体の約70%と、大半を占めました。また、約96%の回答者が、大学が性差別や、性暴力、セクシュアルハラスメントに関連する知識・情報を伝えることを適切だと思う又は大学にそのような情報共有してほしいと思っていることがわかりました(設問18)。具体的な内容として提案されたのは、ハラスメント等に関する知識や事例・同意・性的同意に関する知識・被害後にどのように助けを求めると良いのかという情報・介入方法や被害中での助けの求め方・避妊に関する情報等でした(設問19)。

 全体の回答者の約83%が大学内での通報または相談先を知らないと回答し、これは今回の調査対象である三大学の中でも比較的高い割合となっています。そのため、大学内で被害を経験又は目撃しても、性被害に関連した情報が集まらない可能性が高いことが考えられます。そうした情報が集まらないことで、性暴力が起きる原因の改善ができないことが危惧されます。また、被害を経験した方や目撃してしまった方、又は加害してしまった当事者で、精神的、身体的な回復を希望する方への手立てが狭まれている可能性も高く、決して望ましい状態ではありません。


【明治大学へ要望書を提出し面談をしました】

 2021年11月7日に、要望書とアンケートの集計結果を明治大学の学長である大六野耕作教授に提出しました。その後、2022年1月27日に明治大学副学長である浜本牧子教授、小野寺学生支援部長、そして学生支援事務室の田中様との1時間の面談の機会をいただくことができ、Voice Up Japan明治大学支部からは明治大学1〜4年生のメンバー5人が参加しました。


 面談では、Voice Up Japan明治大学支部が明治大学外に本部がある学生団体であるため、団体に関する質問を多くいただきました。今回の要望内容を受けていただくことは残念ながら叶わず、先方からは、大学に要望をするのではなく、学生が主体性を持って行動を起こし、M-Naviプロジェクト(*4)への応募などとともに、性的同意に関するワークショップを受け入れられる雰囲気を醸成していくことから始めることを勧められました。


 面談を経て、Voice Up Japan明治大学支部は要望を実現させる難しさに気付きました。しかし、今回の調査によって見えた性被害経験や目撃経験は、見過ごすことができるものではありません。これまで見えていなかった性被害や「性的同意」という概念の普及率・理解度の低さなどを明らかにするだけなく、性教育に変化をもたらすには一つの小さな学生団体に留まらない、更なる取り組みが必要です。今後は、本プロジェクトが掲げた目標達成に向けて、明治大学における性的同意に係る情報提供の改善のために最も効果的な取り組み方法を模索していきます。今回のVoice Up Japan明治大学支部による要望書の提出は、終わりではなく始まりです。メンバー1人1人が、明治大学の学生として、明治大学の変化に期待をしています。


【明治大学で性的同意に係る情報提供をお願いします】

 ここまで読んでくださった方々には驚かれた方も、複雑な気持ちになった方も、そんなものかと思われた方もいるかもしれません。性被害に遭うことは、精神的にも身体的にも大きな負担になることであり、一瞬で終わることではありません。この先ずっと頻繁に思い出してしまうことになるかもしれませんし、あることをきっかけに思い出してしまうことになるかもしれません。どのようなフラッシュバックを経験するのか、その精神的な負担の大きさがどれほどかは人それぞれであり、決して他人から見えるものではありません。だからこそ、軽視されてはいけないことだと考えます。


 明治大学は、日本の数多くある大学の中でも学生数の多い大学です。今回の調査における回答者数も、全体のごく一部です。そのごく一部の中でも、これだけの性被害があったことがわかりました。では、明治大学全体ではどれだけの性被害が起きているのか、目撃されているのかーそれをVoice Up Japan明治大学支部は非常に危惧しています。明治大学の教職員関係者の皆様、性的同意に係る情報提供をお願いします。誰一人、加害者にも被害者にもならないキャンパスを実現することがVoice Up Japan明治大学支部の望みです。



<参考資料>

*1 英語で試聴をご希望の場合は「Tea Consent」(https://www.youtube.com/watch?v=oQbei5JGiT8&t=23s )を、日本語で試聴をご希望の場合は「Consent – it’s simple as tea(日本語版)」(https://www.youtube.com/watch?v=-cxMZM3bWy0 )を参考までにご覧ください。なお、著者のRACHEL BRIANさんのホームページはこちらです。(https://www.rachelannbrian.com/

*2 一般社団法人Voice Up Japan 性的同意プロジェクトチーム 小川優 (2019年12月16日)「「性的同意」のない言動は性暴力 〜首都圏3大学における大学生の性的同意の認知度と性に関する被害、目撃等のアンケート結果」、Our Voices https://voiceupjapan.org/ja/our-voices/

*3 一般社団法人 Spring(2018年10月)「見直そう!刑法性犯罪〜性被害当事者の観点から〜」http://spring-voice.org/wp-content/themes/theme-bones-master/library/pdf/sexcrime.pdf

*4 「学生による学生のための支援活動の輪をさらに拡大・推進するため」に設置された、「多様性の尊重と包摂性を重視した活動や持続可能な社会の実現につながる活動に重点をおいて活動費用を助成」を行う明治大学のプロジェクト。詳細はこちらから。( https://www.meiji.ac.jp/campus/6t5h7p00003cvqer.html

 
 
 

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